先日、自宅を会場にしたリノベーション見学会で、お客様をご案内したときのお話です。
お越しいただいたのは、将来、古民家をリノベーションして暮らすことを夢見ているご夫婦。
お二人とも日本建築の設えがお好きで、昔ながらの柱や梁、欄間などを活かした住まいに魅力を感じていらっしゃいました。
古いものをただ新しくするのではなく、その家が積み重ねてきた時間や趣を大切にしながら暮らしたい。
お話を伺っていると、そんな想いが伝わってきました。
見学を進める中で、私はふと思い立ち、こんな提案をしました。
「照明計画も、きっとお二人の豊かな暮らしに必要だと思います。」
お二人は少し不思議そうな表情をされていました。
そこで、私はこんなお話を続けました。
日本建築の美しさは、光と影の間にある。
「我が家もそうですが、照明計画ではダウンライトを極力控えるようにしました。」
ダウンライトは、天井をすっきり見せながら、室内を明るく照らせる便利な照明です。
複数のダウンライトを配置すれば、部屋全体に必要な明るさを確保することもできます。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
ただ、部屋の隅々まで均一に明るくしてしまうことが、日本建築の美しさを少し損なってしまう場合もあると思うのです。
例えば、格子。
そこから差し込む光は、床や壁に美しい影を落とします。
欄間の繊細な彫刻や組子も、光の当たり方によって、その表情を変えます。
真壁づくりの住宅では、壁から浮き出た柱や梁が自然な陰影を生み出します。
柱に刻まれた溝や、長年使い込まれた木材の凹凸も、光が当たることで独特の表情を見せてくれます。
こうした設えは、それぞれに構造や機能、意匠としての役割を持っています。
そして、その結果として生まれる光と影が、日本建築ならではの奥行きや情緒をつくり出しているのだと思います。

すべてを明るく照らすのではなく、必要なところに光を届け、あえて影を残す。
日本には古くから、そんな陰影の中に美しさを見いだしてきた文化があります。
「せっかく日本建築の設えを大切にするなら、その魅力を引き出す照明も一緒に考えてみませんか?」
そんなお話をすると、お二人はハッとした表情をされていました。
柱や梁、欄間といった目に見えるものだけではなく、それらを照らす光にも目を向ける。
古民家での暮らしを考える上で、一つのヒントになっていれば嬉しいなと思います。
何でもない場所が、お気に入りの場所になる。
実は、私の自宅にも、そんな光と影を楽しめる場所があります。
我が家には、特に用途を決めていない、ちょっとした余白のスペースがいくつかあります。
そこには娘が描いた絵や作品を飾ったり、気に入ったドライフラワーを置いたりしています。
立派な家具があるわけでも、特別な内装を施しているわけでもありません。
照明も、ぽつんと取り付けた、小さな裸電球のブラケットが一つだけ。
決して明るい場所ではありません。
でも、その小さな明かりが娘の作品を照らし、ドライフラワーの影を壁に落とします。
光を受けた絵の具の凹凸や、壁に映る植物の影。
何でもない壁に、光と影のリズムが生まれます。
私は、その景色が何となく好きなんです。
考えてみれば、その場所は暮らしに欠かせない空間ではありません。
収納でもなければ、作業するための場所でもない。
言ってしまえば、何の役割も持たない余白です。
でも、そこに小さな明かりが一つあるだけで、自然と目を向けたくなる場所になる。
照明は、ただ空間を明るくするだけではなく、そこにある何気ないものの魅力を引き出してくれる。
自宅で暮らすようになってから、そんなことを感じるようになりました。
暮らしを明るくしてきた、照明という文化。
少し話は変わりますが、照明は私たちの暮らしを大きく変えてきたものの一つです。
かつて、夜の明かりといえば、行灯やろうそくなど、限られた光に頼るものでした。
その後、電灯が普及し、夜でも部屋を明るく照らせるようになりました。
特に戦後の日本では、住宅の電化や照明器具の普及が進み、人々の生活は大きく変わっていきました。
暗くなれば活動が制限されていた暮らしから、夜でも勉強ができ、家事ができ、家族で食卓を囲める暮らしへ。
部屋が明るくなることは、単に便利になるだけでなく、人々の生活に活力を与えることでもあったと思います。
明るい住まいへの憧れ。
それは、豊かな暮らしを求めてきた日本人にとって、ごく自然なことだったのではないでしょうか。
そして今では、スイッチ一つで、部屋の隅々まで明るく照らせるようになりました。
照明器具の性能も向上し、少ない電力で十分な明るさを得ることができます。
本当に便利な時代になったものです。
でも、ここで少し考えてみたいことがあります。
部屋を明るくすることと、暮らしを豊かにすることは、いつでも同じなのでしょうか。
今の時代に必要なのは、明るさだけだろうか。
現代の私たちは、毎日たくさんの刺激に囲まれて生活しています。
仕事に追われ、家事や子育てに追われる。
共働き世帯も多く、家に帰ってからも、やらなければならないことが山積みです。
ようやく一息ついたと思えば、スマートフォンからは次々と新しい情報が流れてきます。
便利になったはずの暮らしの中で、心のゆとりが少しずつ目減りしているようにも感じます。
そんな時代だからこそ、家に帰ってきたときくらいは、優しい明かりの中でゆっくり過ごしてもいいのではないでしょうか。
例えば、夕食を終えた後。
天井の照明を少し落として、壁際の小さな明かりだけを灯してみる。
柔らかな光が部屋の一角を照らし、その周囲には穏やかな影が残る。
いつもと同じ部屋なのに、何となく落ち着いて感じられる。
そんな経験はないでしょうか。

私は、あえて生まれる影にも、暮らしのゆとりを感じることができると思っています。
もちろん、料理や読書、子どもの勉強など、十分な明るさが必要な場面もあります。
暗ければ暗いほど良いという話ではありません。
大切なのは、その場所で何をするのか、どんな時間を過ごしたいのかによって、必要な光を考えることです。
活動するときには、しっかりと明るく。
くつろぐときには、少し明るさを抑えて。
同じ住まいの中でも、過ごし方に合わせて光を選べること。
それも、豊かな暮らしの一つの形ではないでしょうか。
照明計画は、暮らしの時間をデザインすること。
住宅の新築やリノベーションを考えるとき、どうしても間取りや設備、内装材などに目が向きがちです。
キッチンはどんなものにしようか。
床材は何を使おうか。
壁の色はどうしようか。
どれも大切なことです。
でも、照明についてはどうでしょう。
「この部屋にはダウンライトを何個つけようか」
「ここにはペンダントライトを吊るそうか」
そんなふうに、照明器具の種類や数から考え始めてしまうことも少なくありません。
もちろん、それらも必要な検討です。
ただ、その前に少しだけ考えてみてほしいのです。
その場所で、どんな時間を過ごしたいですか?
家族で賑やかに食卓を囲む時間。
好きな本を読みながら、ゆっくり過ごす時間。
子どもが眠った後、夫婦で何気ない会話を楽しむ時間。
同じ家の中でも、心地よいと感じる明るさは、時間や過ごし方によって変わります。
だからこそ、照明計画は単に部屋を明るくするための設計ではなく、そこで過ごす時間を心地よくするための設計でもあると思うのです。
そして、照明を考えるときには「どこを照らすか」と同じくらい、「どこに影を残すか」も大切にしてみてください。
光と影の両方があってこそ、空間には豊かな表情が生まれます。
夜を、夜らしく過ごすために。
今回、見学会に来られたお客様との会話をきっかけに、改めて照明について考えてみました。
日本建築が好きなご夫婦にお伝えした、光と影のお話。
それは、古民家や和室だけに当てはまるものではありません。
現代の住宅でも、少し照明の使い方を工夫するだけで、空間の表情は変わります。
高価な照明器具を選ぶ必要も、立派なインテリアを揃える必要もありません。
我が家のように、小さな裸電球の明かり一つで、お気に入りの場所が生まれることもあります。
家づくりを考えるとき、私たちはつい、何かを増やすことに目を向けてしまいます。
もっと広く、もっと便利に、もっと明るく。
でも、少しだけ明るさを抑えたり、何も置かない余白を残したりすることで、生まれる豊かさもあるのだと思います。
照明は、夜を昼のように明るくするためだけのものではない。
夜を、夜らしく心地よく過ごすためのものでもある。

これから新築やリノベーションを考える方には、ぜひ一度、自分たちにとって心地よい「夜の過ごし方」も想像してみてほしいです。
そして、そんな何気ない時間を大切にできる家づくりを、私たち4RDesignも一緒に考えていけたらと思います。